脛骨粗面の剥離骨折
症例の概要
脛骨粗面とは、脛の骨(脛骨)に膝蓋靭帯が付着する部分のことです。
脛骨粗面の剥離骨折は、若齢のわんちゃんによくみられる骨折の1つです。
経過および検査
「散歩で嬉しそうにジャンプしていたと思ったら、急に足を挙げて歩くようになった…」と
不安そうなお父さんからお電話がかかってきました。
病院へやってきたのはまだ生後6か月の仔犬さん。
完全に3本足で歩いていて全く体重を支えられない足がある様子でした。
レントゲン検査をしてみると、脛骨粗面が剥がれてしまっていることがわかりました。(写真)
脛骨粗面には膝蓋骨(膝小僧の骨)を支える靭帯が付着しているため、大きく剥離した場合は
外科的な処置を行わないと元に戻ることはありません。
まずは外固定(ギプスみたいなもの)してこれ以上剥離がひどくなるのを防ぎつつ、手術を計画します。
治療
手術はまずキルシュナーワイヤーと呼ばれるピンで剥がれた脛骨粗面を脛骨に固定し、
さらにテンションバンドワイヤーで固定をより強固に補強するというものです。
手術後のレントゲンがこちら。
手術の翌日には退院。
そこから2週間は外固定を外せませんが、それでも元気いっぱい歩き回ることができます。
1~3か月ほどは定期的にレントゲンで経過をチェックして、ワイヤーを外すタイミングを計ります。
獣医師のコメント
成長期のどうぶつの骨には、まだ完全に骨化していない「成長板」という部分があります。
個体差はありますが1歳ぐらいまでの間はこの成長板で日々新しい骨が作られ、伸びることで体が大きくなっていきます。
今回剥離した脛骨粗面は成長板のすぐ近くにあります。
成長板やその付近に骨折が起こることで成長板が破壊されてしまうと、その部分の骨の成長が妨げられ、次第に変形したり、
その変形により脱臼が生じたりすることがあります。
また、手術のために使用するピンやプレートなどの金属パーツが成長板を傷つけた場合も同じような変化が起こります。
今回の骨折のような成長板を巻き込んだ骨折の場合は、手術後も注意深い経過観察が必要なのです。
仔犬さんはコントロールが難しいうえに予期せぬ動きが多く、思わぬ事故が起きやすいものです。
この時期の外傷がその後の一生に大きな影響を及ぼすこともありますので、抱っこした腕からの落下など、
強い外力にはできる限り注意を払いましょう。