症例集
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症例集 case report

内視鏡生検による腸リンパ管拡張症の診断

症例の概要

血液中のたんぱく質が腸内に漏れ出してしまう状態を「蛋白漏出性腸症」といいます。

原因は様々で、胃や腸の潰瘍や感染性のものもあれば、腸管型のリンパ腫や炎症性腸疾患(IBD)が原因となることもあります。

いずれにしても、基礎疾患を突き止め、そのケアをすることで蛋白漏出性腸症を治療していきます。

経過および検査

9歳の小型犬ミックスの子が激しい嘔吐と食欲の低下を主訴に来院しました。

超音波エコーでおなかの中を見てみると、少量の腹水があり、十二指腸(小腸)の壁には白い点状の病巣が見えました。

血液検査では、低タンパク血症(血漿蛋白やアルブミンの数値が低い)が認められました。

症状と検査結果から、蛋白漏出性腸症が考えられましたが、基礎疾患を特定するために内視鏡検査を実施しました。

内視鏡検査は、人間の胃カメラと同じ検査で、全身麻酔下で行います。

開腹することなく消化管の中の状況を目で見て、病変のありそうなところから少量の組織を採取することができます。

内視鏡検査で採取した組織の病理診断結果は「リンパ管拡張症」でした。

腸壁に存在するリンパ管が破壊されて、リンパ液が腸内に漏れ出していたのです。

腸のリンパ管は脂肪やたんぱく質の吸収・運搬に大きくかかわっているのですが

その働きが阻害されて、上記のような症状を出していたのですね。

治療

内視鏡検査の直後から、ステロイドによる治療を開始しました。

幸いなことに投薬への反応はすこぶる良好で、嘔吐や下痢などの症状だけでなく、低たんぱく血症と腹水も1週間ですっかり良くなりました。

同時に低脂肪食を食べてもらい、定期的な血液検査を行いながら

徐々にステロイドの量を減薬していきました。

1度は休薬を試みましたが、お薬をやめると1か月ほどで症状が再発してしまうため

現在では低用量のステロイドを続けることで元気に生活しています。

獣医師のコメント

低たんぱく血症は、症状が無くても定期的な健康診断で偶発的に見つかることがあります。

症状が重度の場合は腹水や胸水がみられたり、体が浮腫んできたりなど

消化器以外の症状も出てくるようになります。

症状が重症化する前に早期発見、早期治療をすることが大切です。

本症例の場合は、比較的重度の低たんぱく血症でしたが

ステロイドが奏功して よい状態をキープしています。

リンパ管拡張症やIBDの症例の中には、薬が奏功しにくい場合や

長い経過の中で腫瘍に変化する場合もありますので、経過観察には注意が必要です。

食欲不振や下痢・嘔吐が長引く場合は、早めに受診をご検討ください。

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